大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1236号 判決 1957年12月25日

控訴人 毛利鋼三

被控訴人 柴崎吉蔵 外一名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。

本件につき東京地方裁判所が昭和三二年一月七日にした強制執行停止決定を取り消す。

前項は仮りに執行することができる。

事実

控訴人代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張の要旨は、左記の外は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

被控訴人等代理人は次のように述べた。(一)、本件賃借権は、小島長衛が昭和一二年一月一日当時の本件土地所有者であつた東京建物株式会社から、普通建物の所有を目的とし、期間を同日から二〇箇年、すなわち昭和三一年一二月三一日までと定めて、これを賃借し、その地上に建物を所有したが、控訴人が昭和一七年四月二七日小島長衛から右建物と共に本件土地の賃借権を譲り受け、昭和一八年四月一四日頃東京建物株式会社の承諾を得て、取得した賃借権である(二)、控訴人が本件地上に所有した建物が昭和二〇年五月二五日戦災により焼失したとの控訴人の主張事実を認める。

控訴人代理人は、前記(一)の被控訴人等の主張事実を認める、と述べた。

当事者双方の立証及び認否は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

理由

控訴人から被控訴人等に対する東京地方裁判所昭和二四年(ワ)第五八九二号及昭和二五年(ワ)第一九五二号訴訟事件について被控訴人等主張通りの主文の判決が言渡され、これに対する控訴及上告も棄却せられて、右の地方裁判所の判決が昭和三一年一〇月三〇日確定したことは争のないところである。

本件訴訟は被控訴人両名から右判決によつて確定した控訴人の請求に対する異議を主張するものであるが、その原因とするところは、控訴人が前示確定判決による請求の基礎とした土地賃借権は存続期間の終期である昭和三一年一二月三一日の経過によつて消滅したというに在る。而してその根拠とするところは前示確定判決の主文において控訴人の借地権の終期を右の日時に確定しているからと主張する。当事者間に争のない事実によれば、確定判決のこの点に関する主文には「被告柴崎吉蔵所有の東京都新宿区角筈一丁目一番地一五八宅地二十八坪八合一勺につき原告が賃借権(但し、契約の終期昭和三十一年十二月三十一日)を有することを確認する。」「被告土山吉蔵所有の東京都新宿区角筈一丁目一番地一五七宅地二十三坪三合八勺につき原告か賃借権(但し契約の終期昭和三十一年十二月三十一日)を有することを確認する。」となつて居る。被控訴人等は右の主文によつて控訴人の借地権は昭和三一年一二月三一日迄を存続期間とする借地権に確定せられこの点について所謂既判力を生じたものと言うのである。

思うに、右主文において控訴人が借地権を有しその賃貸借契約において約定せられた終期が昭和三一年一二月三一日となつている権利関係が確定せられたことは明確である。しかしながら、この主文が控訴人の借地権の存続期間を同日迄のものと確定したものと断定することはできない。けだし借地権の存続期間を定めた当事者間の約定は、ある場合には借地法の規定により効力なきものとせられることあり、又場合によつては法律を以て延長せられることもあるから、当事者の約定した終期と法律上有効な終期とせられるものとは一致するとは限らないからである。本件における問題の前示主文は、当事者が約定した終期を確定したことは明であるが、法律上の存続期間の終期を定めたものとは解釈することはできない。このことは成立に争のない乙第一乃至第三号証に記載せられた当事者双方の主張もこの趣旨で争つていることを見てもこの判定の相当であることが裏付けせられる。要するに前示確定判決では控訴人の借地権の法律上有効な存続期間迄を確定したものとは解せられないことに帰する。しからば控訴人の借地権の有効な存続期間はどうなるであろうか。

当事者間に争のない事実によれば本件問題の土地はもと東京建物株式会社の所有に属し、訴外小島長衛が昭和一二年一月一日、同会社から所謂普通建物の所有を目的とし、期間を同日から二〇個年、すなわち昭和三一年一二月三一日までと定めて賃借し、地上に建物を所有したか、控訴人が昭和一七年四月二七日、小島から右建物と共に借地権を譲受け、昭和一八年四月一四日頃地主たる右会社の承諾を得たものであるが、控訴人所有の右建物は昭和二〇年五月二五日戦災により焼失した。成立に争のない乙第五号証によれば被控訴人柴崎は昭和二四年四月二〇日東京都新宿区角筈一丁目一番地一五八宅地二八坪八合一勺の所有権を取得し、又成立に争のない乙第六号証によれば被控訴人土山は昭和二三年一二月二七日、同区角筈一丁目一番地一五七、宅地二三坪三合八勺の所有権を取得したことが認められる。以上の事実関係からして控訴人の借地権の存続期間を考えて見ると控訴人の借地権は戦時罹災土地物件令第三条第一項及附則第三項により、同令施行の日である昭和二〇年七月一二日から始まり、罹災都市借地借家臨時処理法第二八条で右物件令が廃止せられた日(昭和二一年九月一五日)までの期間、約一四ケ月余りの間、進行か停止せられ、この期間だけ延長せられたものということになる。従つて控訴人の借地権はなほ現に存続期間中にあり、たゞ昭和三一年一二月三一日が経過したことによつては消滅していないと判断せられる。

被控訴人等は控訴人の借地権の消滅した事由につき、他に何等主張するところがないのであるから、その請求の理由のないことは既に明である。その請求は認容できない。

よつて原判決は取消さるべく、民事訴訟法第三八六条第五四八条、第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例